この小説を読むと、田中正造は決して幸せに死んでいった訳ではないことがわかります。
むしろ、本書のタイトルである「辛酸」を舐めて死んでいったといっても過言ではありません。
公害と戦い続けた生涯であり、生きている間にその主張が公的に認められることはありませんでした。
しかし、その人生を賭けて戦い続けた生き様は読む人の心に痛切に訴えかけるものがあります。
人々の健康を守ることの大切さが認識されるようになったのも、
田中正造が命を賭けて戦い続けた結果といえるのではないでしょうか。
未曾有の問題にどのような信条をもって立ち向かうべきか、
男臭い姿と、汗まみれ、泥まみれの命の強さが
読む人に背中で語りかけているかのようです。