pleetm's blog

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華岡青洲の妻

読みました。

嫁、姑という永遠とも言える争いを、江戸時代、華岡青洲という稀代の外科医師の家系の特異さととともに描く意欲作です。一見、つまらなくなるような題材かと思いきや、その時代背景や家庭の特殊さが相まって、読み応えのある物語でした。

単なるドロドロとした争いではなく、むしろ大方の人から見れば理想の嫁姑の関係。お互いに褒め合いながら、円滑に家庭を進めていく。しかし、本人たちの間には、女として負けられないという、化かし合いのような見えない牽制の仕合。それは器の大きさを示すための知恵比べのようなものでした。

その争いは、華岡青洲という外科医が世界で初めて全身麻酔を開発する際の人体実験をめぐる争いをクライマックスに至ります。姑(青洲の母)と妻が互いに自分を実験台にしてくれ、するのならば自分を先に、と家族への貢献を示しあいます。争いを落ち着けるべく青洲は姑(自分の母)を最初の実験台に選びました。妻は落胆したものの、実は青洲は、麻酔を成功させる上での最もリスクのある成分は入れずに試しました。それに気づいた妻は、自分でこそ、本当の麻酔を試して欲しい、と懇願します。

そして、その実験が行われ、ついに麻酔の人への使用が成功しました。姑は実験で使われた薬品の違いは知りません。そして、効果が違うのは何かがおかしいとして、再度の実験を行いますが、すでに成功していることを理由に、ここでも青洲は本物を使用しませんでした。妻はそれを知っていましたが、そのことを明かすことはありませんでした。そして、妻で2度目の実験を行った時、異変がおきました。

目に激痛が走り、失明してしまったのです。しかし、本当は、すでに一回目の実験で相当の痛みがありながら、ほとんど視力をなくしてしまっていました。妻はそのことを最後まで言わず、また、家事も、姑への対応もこれまで通り何もなかったかのように行っていました。

この事実を娘(青洲の妹)から聞かされた姑は愕然とし、全てを悟るとともに、妻が本当に華岡家の一員として認められることとなりました。

この壮絶な争いと犠牲の上に、世界で初めての全身麻酔の外科手術を取り行った華岡家が広く認知されることになりました。

 

僕自身、華岡青洲という人を知りませんでしたが、その歴史だけでなく、そこに待ち受けていた困難やドラマをこれだけ活力ある文章で描くことができるのは有吉沢子だけではないかと思います。

 

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