pleetm's blog

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断弦 有吉佐和子

読みました。

有吉佐和子のデビュー作とのことです。この重厚な文章を二十歳を少し過ぎた頃に書いたということが驚きです。落ち着いた文体としっかりとした調査・取材に基づく文章です。そして、本書のキーとなる「音」を言葉で表現するという難題に挑み、それを表現した感性が純粋にすごいと思いました。

「断弦」の意味するもの、それは、地唄という伝統芸能で使われる三味線の弦なのですが、伝統芸能そのものの継承が途切れること、断たれてもなお残るもの、伝統の本当のすごさとは何か、のモチーフになっていると思います。

地唄の世界の長老である大検校菊沢寿久はいわゆる古い固い伝統芸能の長。その娘である邦枝は、寿久に地唄の教育を受けていたものの、渡米。親子の確執があるものの、最後まで寿久は娘を思っています。寿久は病身となり、自身の地唄をテープに録音します。帰国した邦枝はそのテープを聞き、「本物」の力強さと想像力に涙します。

この小説では、カセットテープという文明の機械が親子を結びつけ、断絶したものを繋ぎとめます。文明が発達し、新しい時代と古い時代とで考え方の異なる人間同士、それぞれの考え方は違うが、やはり親子であり、師匠と弟子であるこの二人の間では、テープを介してすべてが本当の意味でつながります。

親は子に対し、いつか伝わるはずという心をテープに託し、その希望は、しっかりと素養を身につけた弟子はしっかりとその希望を受け取る事ができる。伝統的な師匠と弟子という関係が立たれても、その伝統と希望を文明がつなぐこともある。この断絶と伝統の継承を皮肉とも、希望とも取れる形で、時代の変化点を鮮やかに描写していると思いました。

文明が発達すればなんでもよくなる、というわけではない。しかし、文明が発達したことで、継承されうるものがある。そういったことを考えさせられる作品でした。

 

断弦 (文春文庫)

断弦 (文春文庫)

 

 

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