pleetm's blog

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青い壺 (文春文庫) 作者:有吉 佐和子 文藝春秋 Amazon

読みました。

ある職人が偶然作ることができた青い壺。その色はまるで800年前に作られ、唐から渡ってきたような色が出ているという。その壺は、売られ、買われ、盗まれ、そしてまた、売られていく。その場所場所で持ち主やその周辺の人々との関わりがある。その壺は最後、その職人が秒病床に臥している時、偶然近くに戻ってくる。それだけといえばそれだけの話です。

 

その壺を背景に映し出され切り取られる人々の人生の一片は、なんということもない、ある種ありふれた日常です。壺が何かを発するわけではないし、壺が人の話を聞いたわけでもありません。ただ、その壺を見て、いいなと思った人や、どうも好きになれないという人、これは高く売れる、そういった人々の手を渡っていきました。そして、最後に、その壺が作り手の元に戻ってきた時、彼は一目でその壺は自分が作ったものだ、ということがわかると同時に、この見事な古色はどうやってついたのだろう。と感じます。そして、彼は、これまでと同じように、自分の作品には刻印を押さないで居続けよう。と誓います。

 

なぜ、職人はそのような決断をしたのか。

その何も語らない壺は、作り手にはわかる古色を残すことによって、これまで経験してきたことを実は雄弁にかたっているのではないか。彼は、そのことを壺自身の色の深みを増すということで蓄積してきたということを直感的に感じたのかもしれません。だからこそ、今後も自分の作品には、刻印などをして作者を明示しないようにし、多くの人の手に渡るようにしておきたいと願ったのではないでしょうか。

 

本作は壺の話でしたが、こういったことはものに限定されたことではないように感じました。それが人であったとしても、どんなに姿形を変えて現れようとも、なにか、わかる人にはわかる、というところがあるような気がします。そしてこの職人のように、自分なりにその変容について想像を巡らせ、そこにオリジナリティを感じると同時に変化を喜び、そしてそれを妨げないようにしようと感じるのではないでしょうか。