読みました。
平野さんの作品は大好きでデビュー当時からずっと読んでいます。
本書は、著者が提案する「分人」という概念を導入した小説。
一度自殺し、その死から復生者として蘇った徹生。死とは何か、生きるとは何か。
徹生は自分の死のルーツを探りながら、問い直す。
そして、その原因は、人との関わりであり、その関わりから生まれてきた自分でした。「自分とは認めたくない自分」を殺すため、死を選んだのでした。
この本では、「2度死ぬ」ということを通じて、人の一生が1度であることを大事にしなければいけないのだと教えてくれたように思いました。
そして、平野さんがいう「分人」という考え方は、「自分とは何か」という問いに対する答えではないのだと思います。それが答えと思う人もあるかもしれませんが、自分は違います。どこかでやはり「自分」というものがあるように思えてしまうのです。
だけど、「分人」というツールを使うことで、人との関係を楽にすることができるというのは確かだと思います。
他人の全てを愛する、理解するということは不可能に近い。だけど、相手の良いところを見つけてその分人と対話している自分を好きになることができれば、その人との関係もすごく楽になるのではないでしょうか。そうすれば、相手に過度な期待もしないし、無理に変えようとする必要もない。相手を変えるってとてもエネルギーのいることで、そう簡単にできることじゃない。
それなら、相手に対する自分の分人を少し変えてあげるほうが気持ちはすごく楽です。
もう一つの不安は、自分が変わってしまうこと。自分が変わるということがなんとなく恐い気がしてしまうんですね。だけど、分人Aだけちょっと変えてあげる。分人Bは変わらない。そう考えれば少し不安が薄らぐような気がします。
しかし、実際には分人同士はおそらく相互作用しあっていて、分人Bは少し変化しているのです。だけど、「分人」というツールを使うことで、自分が変わるということに対する恐怖感が少し和らぐような気がしています。
それに、変わるのは恐いけど、悪いばかりではない。そのことには変わってから気づくことが多いように感じます。
でも、変わらないものもあるんですよね。コンプレックス。
平野啓一郎「分人」シリーズ合本版:『空白を満たしなさい』『ドーン』『私とは何か―「個人」から「分人」へ』
- 作者: 平野啓一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る